満ち欠けの物語

結果は現実逃避ポエミーブログ

夢であるように。マリウスのこと~音楽劇マリウスを観て⑥~

【注意】音楽劇マリウス、および1961年公開映画「ファニー」のネタバレを含みます。未観賞の方はご注意ください。また、レポではないので音楽劇マリウスの詳細なレポートを読みたい方のご希望にも沿えません。ご了承ください。

 

終演から5日も経って、ようやく彼に対する怒りも悲しさも有り余る愛も落ち着いてきました。

どうしようもない男をなんて魅力的に演じてくれたんだと思います。マルセーユに心を置き忘れたままマリウスと同じ顔でアイドルやってる男にどんな感情を抱けばいいのかしら…あ、顔かっこいいですね、髭継続ありがとうございます相変わらず歌がお上手ですねハイハイわたしは役を離れたってあなたが好きですよ…。

6回に分けて同じ舞台の感想(しかもレポートでも考察でもない本当にただの感想)を書いた時点でちょっとどうかしていましたし、もっとどうかしていることに今後もちらほらあの舞台については感想を言ってしまう気がしますが、ひとまずは最後。マリウスについて。

 

マリウス。マルセーユのカフェの一人息子。外の世界に憧れて船乗りを夢見ている24歳。幼なじみのファニーとは周りから似合いのカップルと言われ本人たちも憎からず思っているものの、夢のため恋人関係には踏み切れない。フラメンコがうまい。様子のいい男。

 

この男には正座させて小一時間説教するくらい言いたいことがたくさんあるんですが、まぁそれはほかの皆さんも十分にされているかと思いますので…。

マリウスについて一言あるとすれば

「今しか見られない男」。

船の上にいて帰りたかったとかたぶんただのホームシックなんでしょうけれど、そんなの生まれてからずっとあれだけ賑やかでみんな自分を知ってるような人に囲まれて生きてきたら、はじめてひとりぼっちの世界に出たときさびしくて故郷が恋しくなるの当たり前なんです。

 

身も蓋もない言い方をするなら、望郷をファニーへの愛と取り違えないでほしい。

 

街を出る前から街を出たあとの悲しみや孤独は考えればわかるはずなのに、マリウスにはその想定がなかった。もしくは想定がかなり甘かった。

そしてもし寂しさを感じたとしても、もしマレジー丸に乗るのをファニーが引き止めてくれて結婚して、子どもを育てながらカフェの店主をしていた未来に自分が幸せだったか、そう考えればいま船に乗っている幸せを実感出来たはずではないでしょうか。

夢を見ること、突き進むことは決して罪ではないけれど、もう24歳なのだから何かを選択してそれ以外を選ばなかった場合のシミュレーションくらいしてほしい…。そして仮定ができていないことを人に八つ当たりしないでよ…。

 

ifがハチャメチャ苦手ですねマリウス…。

 

その想像力のなさ、今しか考えてないところが丸出しになる2幕での坊やが自分の子だと判明するシーン。

同情するとすれば、最愛の恋人がもしかすると自分と一緒にいた頃からほかの男と繋がっていたかもしれないという疑念を抱きながらの再会、街では約2年の時が過ぎていても船で世間と隔絶されていたマリウスにとっては昨日起きた出来事のような別れ、妻となり母となっていた元恋人、しかし子どもは自分の子だった!?って情報量多すぎて処理追いつかないのは仕方ありません。

それでも出てくるワードチョイス酷すぎる。恋愛ゲームだったら一気に好感度0でゲームオーバーです。

 

そしてパニスに叱られ諭されてからの涙。ファニーに拒絶されてまた涙。

このあたりマリウスがどういった感情かは測れませんが、冷めた目で見ていると「もうここに居場所がない。」だから周りへの思いやりとかで泣いたわけではないしパニスの気持ちもセザールの気持ちも、そしてファニーの愛もマリウスはずっと気付けないまま生きていくのかもなぁなんて思いました。

まぁ冷めた目では見られなくてボロボロ泣きましたが。

 

わりと酷い言い方をしてしまったけれど、実はマリウスのこと、クズとは捉えられないんです。

あまりにも見通しの甘い子どもだっただけ。

将来を想像し少しでも明るい方へ構築できなかったことを除けば、彼は働き者でボースンに買われる程度には立派な青年で、父親や身の回りの人たちを愛していて、きちんと愛されていた。

クズでも愛される話って心温まるようでいてガチクズからすると結構精神にくる(毎日真面目に暮らしてる人がまず幸せになるべきとか現実では世渡りの上手いクズだけが得して能力のないクズは淘汰され…とか余計なことを考えるから)のですが、マリウスは私基準のクズではなく愛される理由がわかったし、だからこそ幸せを感じられないラストは本当に切なかった。

見通し甘くたってなんとなく今がハッピーなパリピ思考でええじゃないか!年中リア充、バイブスイェーイ!!

 

混沌としてきましたが、それほどまでに音楽劇マリウスはたくさんの人の心に深く感じ入る何かを抱かせてくれる、素晴らしい舞台だったのです。

舞台は小さなマルセーユの小さなカフェだけ。そこにはたくさんの喜びと笑いと悲哀がありました。

できれば彼らの人生がこれから幸せでありますよう、そして運が良ければまたあの街の人たちに巡り会えるよう祈りながら音楽劇マリウスの感想を終わりたいです。

 

ブログを書いたことで反応を頂けて嬉しかったです。舞台を通じて出会えた方々も宝物として、これからも音楽劇マリウスと桐山照史さんへの情愛を重ねてまいりたいと思います。

それでは最後に。

 

「マリウーーーース!!!!」