「ムーンライト」を詩として読む~三部作完結編と位置付けた場合のムーンライト~
このブログはジャニーズWEST最新シングル「サムシング・ニュー」通常盤収録楽曲「ムーンライト」の歌詞を重岡大毅さん作の「詩」として読む試みをしております。
あくまで個人の解釈の一つとしてご容赦くださいますようお願い申し上げます。
さて、新曲発売から2週間が経とうとしている。今回もメンバーの自作曲が収録されることになった! めでたい! ジャニーズWESTってすごいのよ! 楽器できるメンバーがいて自分で曲書いて詞を書いてバンバン発表できるんだから! かみしげ最高!!
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ハイ、ホメチギリストはこのあたりにして。曲の音楽性や詞の考察については既に皆さんが進められているところと存じております。そして筆者は「重岡大毅ワードセンス担」です(※桐山担)。ということで、間違っちゃいないに続き、「ムーンライト」も極力制作の背景や個人的な情緒は排除しながら、ひとつの「詩」として鑑賞してみようと思う。ただし今回は、三部作完結編の「ムーンライト」である。
作者である重岡くんから「ムーンライト」は三部作であるなどという発信は(少なくともわたしが知る限りで)ない。いちワードセンス担の勝手な解釈であるとご承知いただきたい。それでは長い前置きはこのあたりにして。
- 0.まだ前置き
- 1.重岡大毅「空」三部作(仮)を読む
- 2.物語に引き込む、クローズとパノラマの視点
- 3.空の状態に読み取る時間の経過
- 4.「空」と「僕」
- 5.盛り込みきれなかった重岡ワードセンス担小ネタ的にいろいろ
0.まだ前置き
いい加減本編を始めたいのですが、前提が必要なので0ではまだムーンライトの話しません! ごめんね!
0-1.音選びがすでにエモい
重岡大毅詩の特徴として、口語の記述かつ「促音」「拗音」の多用が挙げられる。
まあ歌は多くの場合口語体なので前者はともかくとして、後者はそのほかのJ-POPと比較した場合にかなり顕著なのではないだろうか。
ちなみに「促音」「拗音」とは何かは下記リンクをご参照ください。
文化庁 | 国語施策・日本語教育 | 国語施策情報 | 内閣告示・内閣訓令 | 現代仮名遣い | 本文 第1(原則に基づくきまり)
「促音」や「拗音」の持つ効果についていろんなリンクを見ていたら興味深い研究があったのでこちらも。
しかし筆者は言語学や音声学の学術的素養を持ち合わせていないのでざっくりと受ける印象だけ伝える。
重岡大毅の言葉は音がエモいのよ。(アホの語彙力)
促音、小さい「つ」の詰まる音は聞き手に一瞬の間を与える。勢い余って小さく息を詰めるような、しゃくりあげるようなごくわずかの間。この間による緊張と緩和は、歌い手と聞き手の呼吸を同調させていく。
そして拗音(「きゃ」「きゅ」「きょ」のような音)はどこかユーモラスな響きと同時に幼児のたどたどしさを思わせて、親近感を覚える。
呼吸を感じる音と親しみやすい音。この組み合わせによって言葉がぐっと身近に、耳なじみよく届き、より胸に迫るものになっているのではないだろうか。
だから重岡くんの紡ぐ言葉は「音がもうエモい」。
0-2.映像化の魔術師
重岡くんの書く詩の素晴らしい点、それは、本人のハートの熱さと繊細さから生まれるハートフルさエモーショナルさはもちろんなのだけれど、しかしわたしが最も舌を巻くのは描写力である。心象風景のようでいて、彼の詩の物語は、いつ、どこで、だれが、がいつもはっきりと見えてくるのだ。
例えば処女作『乗り越しラブストーリー』。
「よっ」て言えよはよ
車窓透けた僕赤ら顔
このたった二行で電車内での「僕」の様子、立ち位置、そして具体的に描写されていないものの、車両内に入ってきたのであろう「君」の影まで感じられる気がする。
重岡くんはとても短いシンプルな言葉で、その歌の景色に聞き手を連れてくる。
ごくパーソナルな歌である「サラリーマンの父さん」でさえ、
鼻で笑う もう歳だと
助手席 ぬるい風のエアコン
というように、父と子の間に一瞬流れた気まずい空気の質感に触れさせる。
単純な言葉で聞き手に場面の映像を見せる。この能力は、もっと多くの分析と検証をされて賞賛されるべきではないか、と個人的にはずっと思っている。(誰か! ちなみにわたしはプレバトの俳句が好きなのですが重岡君出てくれないかな、才能発揮できる気がします! )
1.重岡大毅「空」三部作(仮)を読む
ここから本編です。前置き長い。
「ムーンライト」の鑑賞ですが、ムーンライトの比較対象として、そして勝手に共通項を感じる作品として、「間違っちゃいない」と「to you」とを、と合わせた三部作として読もうと思います。
勝手に三部作にしたので、三部作としての題名も勝手に決めました。それが重岡大毅「空」三部作です。ファンの皆様とご本人様本当に申し訳ございません。
ムーンライトを含む三曲と空との関係性の変化については後述。
2.物語に引き込む、クローズとパノラマの視点
0-2にて詩の景色描写については既に説明しました。
「空」三部作において景色描写が端的かつ見事に表れるのがAメロ。歌が始まるとすぐに、その物語に引き込まれます。そして引き込み方にわたしが注目しているポイントが。
それは
クローズとパノラマ。
ひとまず三作の該当部分を引用してみましょう。
涙一粒 星降る夜に
「間違っちゃいない」
あの日々僕の足元を照らすんだ
何とかなるって 夜明けの魔法すがろうか
「to you」
手を突っ込めばポケットの中 宇宙行きチケット
「ムーンライト」
三作品ともかなりわかりやすくクローズの視点とパノラマの視点とが切り替わります。
抜き出すと↓のような感じです。
クローズ→涙、足元、ポケット
パノラマ→星降る夜、夜明け、宇宙
クローズは誰にでも身近に想像しやすいワード、パノラマがすべて「空」にまつわるワードであることが特徴的です。小さなものから始めることで空に視点が移った瞬間に、突如世界が広がったような感覚がします。
特にムーンライトは、ポケットから「宇宙」に繋がる取り合わせの意外性、続く「縁石に乗り込み」でまた身近な景色が見えて、「やじろべぇ」というおかしみのあるユニークな言葉で「僕」全体の姿が現れてくるという起承転結がAメロに織り込まれています。
短い文中で遠近を大胆に行き来できるのは、詩ならではの表現方法であり、重岡君はその利点を最大限に活用します。例えばサビでも
ここだけの話をしよう
世界が止まっても 僕は止まりゃしないんだ
と、内緒話の距離感からいきなり世界を相手取ってしまう。
対するものをわざと巨大にすることで、大げささに笑ってかなしみがふと軽くなるような、シャイな重岡くんらしい優しさも感じるフレーズです。
3.空の状態に読み取る時間の経過
三部作に登場する空は、それぞれ歌のなかで表情を変えていき、空の状態によってわたしたちは歌の「僕」が一日のなかの「いつ」を過ごしているか知ることができます。
間違っちゃいない:夜→朝→夕方
to you:夜明け→日中→夕方(?)
ムーンライト:昼→夜(仮定)
ムーンライトの面白さのひとつは、物語(楽曲中)での夜の訪れがないのにタイトルを「ムーンライト」にしたところにあります。
月の光が差すのは「いつか」。
おそらくまだそのときは君に来ていませんが、やがて襲ってくる夜を憂い「僕」は平和な真昼間に種を植えている。三部作で空が表現する時間軸の変化によって、自分の手元にある悲しみだけではなくて、未来にある誰かの悲しみも救おうとする、健気で真摯な気持ちが伝わってきます。
間違っちゃいないでは否が応でも迎えていた「翌朝」に、ムーンライトでは力強く「セイグッバイ」しているのも、頼もしくうれしくなりました。
やや個人的な感情の方に脱線しました。
空の状態における「いつ」の固定もまた、前段の映像化を助ける大きな役割のひとつとなっています(こっちの方が言いたかった)。
ムーンライトの「真昼間の月」ですが、当然雲のない晴れた空でしか見ることができません(Aメロですでに「青空」が登場しています)。「真昼間の月」を思い描くとき、同時に真っ青の空が背景として広がっているはずです。「雲ひとつない空」など言わなくても昼に浮かぶ月を描くだけで清々しい青空まで見せてくれる、一方「夜の底」では突き抜けた高さだけではなく沈む深さも表わしてくれる、何気ないようでとても慎重な言葉選びだなあと感動します。
4.「空」と「僕」
「間違っちゃいない」では近くにあるはずなのに届かない、なかなか「僕」の思いに寄り添ってくれない、でも僕が僕であるための問いかけをせずにはいられなかった存在が「空」でした。
「to you」は別の道を進む「あなた」や「お前」、さらに過去の自分に向けたメッセージボードのような役割の「空」。離れていても「僕ら」を繋げてくれるツールでした。
では「ムーンライト」はどうでしょう。ムーンライトで「僕」は月に行こうとします。初めて自分から「空」に向かっていこうとするのです。
ここからは本当に勝手な解釈なのですが(いや今までも散々勝手な解釈をしているのですが)、ムーンライトは宇宙へ向かい光や時間も超えていくなかで、to youで思い出していた過去の自分たちの隣を通り過ぎ、間違っちゃいないの冒頭で「僕」が迎えている夜を救いに行った歌、というようにも読めないでしょうか。
無理やりですね。三部作である、という場合の解釈で読んでいるので悪しからず。
ただ、挫けて何もかも嫌になって、「空」という他者の力を借りて「僕は僕で間違っちゃいない」と自らを鼓舞していた「間違っちゃいない」から、自らが歩んできた日々が自らの道を照らす光となった「to you」、ついにはほかのだれかの闇を照らす光の種を植えるひとになった「ムーンライト」までの変遷を思うと・・・。
エモい。(それしか言わんのか)
5.盛り込みきれなかった重岡ワードセンス担小ネタ的にいろいろ
・ポケットとチケット→「乗り越しラブストーリー」のキーアイテム
・ポケットとチケット②→「宇宙行き」で「ロケット」を想起させる押韻なのかな?
・花を咲かそう→「間違っちゃいない/君が花びら」
・少年たちがいた→「少年たち」のダブルミーニング?
・どこまで行こうか/どこまでも行けそうな→「間違っちゃいない/どうしようもないくらいどうしようの繰り返し」
・何/どう/どこ/どいつ/どれもという不確かさによる自由さ
全然まとめきれていませんが、このあたりで長々と書いてきたムーンライト鑑賞も終わりにしたいと思います。違う読み方や違う解釈、またご本人による解説で出てきた事実など、もしよければ教えていただきましてさらに読みを深めていけたら嬉しいです。
もしもまだムーンライト、および間違っちゃいないやto youを聴いたことがないという方はぜひ、ジャニーズWESTの楽曲に触れていただければ幸いです。