満ち欠けの物語

結果は現実逃避ポエミーブログ

その男、感染者につき

星野源 POP VIRUS TOUR札幌公演のネタバレを含みますのでご注意ください。

 

真っ暗な会場の中で、「それ」はポツンと赤く染まっていた。

鮮血のように存在感のある生命力のある赤だった。

キラキラとした装飾の華やかで煌びやかな衣装が好きだ。ステージ衣装は舞台を見に行く楽しみの一つだから、もちろん演出の意図等は考慮すべきであるにせよ、基本的には華美であればあるほどに良い、とさえ思っている。

それなのに、ただの真っ赤なパーカーにジーンズを履いて独り立つ彼の姿に酷く心を掴まれた。

 

メインステージに向かってゆったりと花道を歩いてゆく彼の姿を見て、子どもの頃に見た理科の授業のビデオを想起した。赤く反応させた細菌が、器官や血管を通っていくのを観察している気分だった。

 

姿を現したバンドメンバーはリラックスしたモノトーンカラー。ダンサーは宇宙から見た地球を思わせる青。そしてステージを自由自在に動き回る彼だけが異端の赤だった。

 

ライブはひたすら楽しかった。初めてのドームツアーなんて嘘でしょ?と思った。

ドームならではのステージ使い、世界観を広げる贅沢な照明、少数精鋭かつホーンやストリングスの美しさを十分に伝えられる厚みのある音。一方でライブハウスにいるようなアットホームな雰囲気。

ハマくんがMC中に、「イヤモニをしてると会場の音は半分以下だから、一度外すので(登場時の歓声を)もらえますか?」と会場を煽って拍手と声をもらったあと、「すごいけどこわくなった」と笑ってたのが嬉しくて良かったなぁ。ドームの醍醐味をこちらにまでおすそ分けしてくれて有難かった。

 

映像作品にもたくさん出演されてカメラ慣れしている方だけあって、ここぞ、というタイミングでのカメラの把握が素晴らしかった。カメラにではなくカメラの向こうにいる「あなた」にきちんと届いていた。あれはもうファンサと言って良いと思う。

もはやアイドルです。

 

しかし楽しさのあまりいつしか強烈な赤にも慣れてしまった頃、「それ」が静かに、確かに、猛威をふるっていたと気付く。

冒頭と同じく真っ赤なパーカーの彼、しかしもう赤は小さな点ではない。ステージいっぱいに真っ赤な衣装に身を包んだダンサーたち。

彼女たちが花道までバーッと広がってのびのびと手足を伸ばしながら踊ったそのとき、ようやくウィルスの「感染」を知る。

 

POPなウィルスの保菌者は、強い感染力をもった音楽を、あの日ドーム中にばらまいていた。

大した免疫も持たなかった私は、恋に蝕まれて幸福を発症させて、しばらくは治らない病気を抱えながら、日常に帰らなければいけないのです。

「毎日色々あると思うけどまた会えるなら笑顔で会いましょう」。

身勝手にウィルスを撒き散らして帰ろうとする彼の泣き顔のような満面の笑顔に、こちらも泣きたくなりながら笑って見送った。

 

風邪はうつせば早く治ると言う。POP VIRUSも誰かに感染させてしまえば早く治るのだろうか。あるいは。